重要文化財

仮名消息

藤原俊成

作品情報

データ

作者 藤原俊成
時代 鎌倉時代 建仁3年(1203)
素材・技法 紙本墨書 一幅
サイズ 29.2×93.4㎝

解説

平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての代表的な歌人、藤原俊成(1114~1204)の手紙である。俊成は、安元2年(1176)63歳の時に出家入道し、90歳の長寿を保った。この手紙は、建仁3年(1203)11月23日、90歳の賀宴が開かれた時の喜びを述べ伝えたものである。翌年の元久元年に世を去っているので、彼の最晩年の筆跡を知り得る貴重な遺品である。文中に見える「しん中将」は、この前年の建仁2年左近衛中将に任ぜられた息子定家(ていか)のことであり、「ずいなう」とは髄脳のことで、歌学歌道の奥義を書いた歌書、またはその講義の意であろうと考えられる。この手紙の宛先の人物が、定家に髄脳の件を命じたことを喜び、また自分(俊成)に対して歌の師としたことを適任でないとし、重ねて定家への髄脳の件について感謝を述べている。この手紙に見られる筆致は、90歳とは思えない力強さがある。なお、この手紙の紙背には、諷誦文(ふじゅもん)が一面に書写されている。
(釈文)
入道をば、うたのし(師)とはつげさせたまひて候へど、なにをかをし(教)へまいらせ候べき。ただお(老)いて候へば、おも(面映)はえにおほせらるる事に候なり。又この御よろこびのゝちは、うれしとだにまた申候はず。これは九条どのゝをり、うれしがりまいらせて候しかども。つゆうれしき事はなくて、すませたまひ候にしかばこれをばなかなか申さで候はんとて候なり。さればなに事も申候はぬに候。中将におほせ候にけんよく候。あなかしこ。
まことにこの春より御よろこびのおほさ、なに事にもおぼしめし候ままに、めでたくおはしまし候はんずる。うれしさ申やるかたなく候。これよりいつしかも申たく候ながら、それもさまざまのよろこびどもの、めでたさにまぎれ候ひて、かつは御ふみをまちまいらせ候つるに候。なに事よりもさとくおぼしめすさまに候はんずる。うれしく候。入道もことしはすでに九十にみち候にて候。まことにもありがたき事に候へば、いみじくおぼえては候。まことには、それもふくとくのかたの事のたのしくて候て、それによろづもまぎるゝやうに、心ちもたのしく候に候。 さてずいな(髄脳)うの事は、しん(新)中将におほせ候にけん。よく候。それはうるせくとりいげに候へば、申やうも候なん