展覧会

岩佐又兵衛 浄瑠璃物語絵巻

2018.04.27(金) - 2018.06.05(火)

概要

岩佐又兵衛勝以(1578 〜1650)は、豊かな頬と長い頤( おとがい) の人物表現や大和絵と漢画を折衷したような独特の画風で一世を風靡し、のちの絵画に多大な影響を与えました。歌仙、風俗、物語など幅広い画題を得意とし、なかでも古浄瑠璃の正本(テキスト)を詞書とした絢爛豪華な絵巻群は、又兵衛の画業においても重要な位置を占めています。「浄瑠璃物語絵巻」は、奥州へ下る牛若と三河矢矧の長者の娘浄瑠璃の恋愛譚を絵巻化したもので、金箔や金銀泥、緑青、群青など高価な顔料がふんだんに用いられ、又兵衛筆とされる絵巻群中最も色彩の華麗な作品です。

本展では、2014 年以来4 年ぶりに全12 巻を一堂に展観します。あわせて、又兵衛絵巻群の中で又兵衛の関与が一番深いとされる重文「山中常盤物語絵巻」(第1 巻)、下野の豪族堀江氏が親の仇を討ち再興を果たす「堀江物語絵巻」(第6 巻)、歌仙絵という大和絵の主題を水墨画の技法を用い奔放自在に描いた重文「紀貫之・柿本人麿図」などの又兵衛の名作を展示します。又兵衛の魅力を十分にご堪能ください。

みどころ

1.重要文化財「浄瑠璃物語絵巻」4 年ぶりの全12 巻一挙公開
重要文化財「浄瑠璃物語絵巻」は又兵衛絵巻群を代表する作品として知られていますが、全12 巻が同時に展示されることは滅多にありません。本展での公開総延長は70 メートルを超え、この絵巻の魅力を十分ご堪能いただけます。

2.写り込みのない超高透過ガラスで細密なディテールを見る

又兵衛絵巻の魅力の一つに、細部までゆるがせにしない丁寧な細密描写があります。リニューアルしたMOA美術館では、低反射高透過ガラスを用いることで、映り込みを気にすることなくディテールまでじっくりと鑑賞することができます。また、本展では撮影も可能となっています。
※三脚、一脚の使用、フラッシュなど他のお客様にご迷惑をかける撮影はご遠慮いただいています。

3.所蔵又兵衛絵巻作品も同時公開 重文3 件の豪華な展示
MOA美術館は、重要文化財4点、重要美術品3点を含む16 点の又兵衛作品を所蔵し、又兵衛を語る上で欠かせないコレクションをなしています。特に本展では、重文「浄瑠璃物語絵巻」(第1 巻〜12 巻)、重文「山中常盤物語絵巻」(第1 巻)、「堀江物語絵巻」(第6 巻)の3件の又兵衛絵巻を同時に公開します。また、重文「紀貫之・柿本人麿図」も含め3件の又兵衛の重要文化財を展観します。

 

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◆イベント
学芸員による美術セミナー
岩佐又兵衛の画業について 「浄瑠璃物語絵巻」を中心に
日時:2018年5 月19 日(土) 13:30〜14:30
料金:無料( 入館料は別途必要)
定員:120 人( 先着順)

◆作品紹介

浄瑠璃物語絵巻 第一巻 あらすじ

源氏の御曹司(おんぞうし)牛若は十五歳の春、源氏の再興を願いひそかに鞍馬寺(くらまでら)を出て、奥州(おうしゅう)の藤原秀衡(ひでひら)を頼り東国(とうごく)をめざす。人目に触れないように、金売吉次(かねうりきちじ)兄弟の供(とも)の者に姿を変えたきびしい旅であった。三河国矢矧宿(みかわのくにやはぎ)に泊まった夜、宿を出た牛若は宿場で名高い長者の屋敷からもれる琴や笙(しょう)・篳篥(ひちきり)の音にひかれて、耳をかたむける。管絃に笛がなかったため、牛若は肌身放さぬ「せみおれ」という名の名笛を出して屋敷の管絃に合わせる。

 

浄瑠璃物語絵巻 第二巻 あらすじ

琴をひいていた浄瑠璃は笛の音に気付き、管絃を止めて笛の音に聴き入る。音色の素晴らしさに、浄瑠璃は仕えの十五夜に命じて、笛の主を確かめさせる。十五夜は牛若の凛々しく高貴な姿を、こまごまと報告する。笛の主が由緒ある人と察した浄瑠璃は、十五夜に託して和歌を送る。

 

浄瑠璃物語絵巻 第三巻 あらすじ

牛若の文の気高(けだか)さから浄瑠璃は笛の主は牛若と察し、女房たちを使いに立たせ館へ招き入れる。女房たちとの合奏中、牛若は浄瑠璃の琴の音に感じ入り、七重の簾(みす)の中にいる浄瑠璃の姿を一目見たいと思う。そのとき一陣(いちじん)の風が簾を吹き上げ、互に見交わした二人に恋慕(れんぼ)の思いが生まれる。その夜、牛若は十五夜の案内で浄瑠璃の贅を尽くした部屋に忍び入る。

 

浄瑠璃物語絵巻 第四巻 あらすじ

牛若は、四方の障子(しょうじ)に四季の絵が描かれた豪華な部屋を通り、浄瑠璃の御所(ごしょ)に近づく。浄瑠璃の寝室に忍び入り枕屛風(まくらびょうぶ)の側から覗(のぞ)くと、浄瑠璃は眠っていた。牛若の求愛の言葉に、目覚めた浄瑠璃は驚きの声をあげ、牛若に帰るように言う。牛若は、さまざまなたとえをあげながら「今夜一夜はなびかせ給え、浄瑠璃君」と口説くが、浄瑠璃は言葉を返してなかなかなびこうとしない

 

浄瑠璃物語絵巻 第五巻 あらすじ

牛若は大和詞(やまとことば)(和歌)を引いて浄瑠璃を口説くが、浄瑠璃はなびかない。さらに浄瑠璃は、夜が明けると母の長者に漏れ聞こえ、流罪(るざい)、死罪になりかねないと告げるが、浄瑠璃のためなら構わないと牛若は返す。浄瑠璃は、この殿には敵わぬと感じつつも、父の供養のため精進中の身であるのであきらめて欲しいと懇願する。牛若は自らの素性を明かし、互いに精進中の身であるから構わないと言う。断りきれないと覚悟した浄瑠璃は、心を寄せ、一夜の契(ちぎ)りを結ぶ。

 

浄瑠璃物語絵巻 第六巻 あらすじ

翌朝、牛若は引き止める浄瑠璃に再会を約束し、和歌を詠み合った後、名残の笛を奏でる。笛の音を耳にした母の長者が女房たちを連れ現れる。牛若は心を残しつつ、修行で身に付けた法力(ほうりき)を用いて、姿をくらまし瞬時に金売吉次(かねうりきちじ)の一行に追いつき東へ下る。残された浄瑠璃は、十五夜にその思いを告げ、牛若の面影を偲び嘆き悲しむ。

 

浄瑠璃物語絵巻 第七巻 あらすじ

吉次(きちじ)の刀を持ち、馬を引く供の者としてのつらい旅が続く。浄瑠璃への思いは深まるばかりで、牛若は遅れがちになる。一行は、池田で宿をとり、見付(みつけ)、袋井、掛川、日坂(にっさか)と打ち過ぎ、小夜(こよ)の中山を超え、宇津(うつ)の山へと進む。

 

浄瑠璃物語絵巻 第八巻 あらすじ

蒲原(かんばら)宿の菊屋では一行を歓迎して盛大な宴会が催された。牛若は、旅の疲れと浄瑠璃と別れた悲しみから床に伏す。先を急ぐ吉次兄弟は心ならずも、牛若の看病を宿の主人の与一(よいち)に頼み、砂金(さきん)百両、巻き絹百疋(ぎぬひゃっぴき)を置いて先に発つ。

 

浄瑠璃物語 第九巻 あらすじ

病に伏す牛若の気高(けだか)い姿をみこんで、与一の女房は娘の婿にと言い寄るが、相手にせぬ牛若に腹を立て、夫の留守に、男を雇って病の牛若を海に沈めるよう命じる。男たちは牛若の気品に打たれて、浜の六本松に捨てたまま帰る。宿に残した源氏の家宝が、童子や大蛇、白鳩、烏に変化して、六本松に伏す牛若を見守る。

 

浄瑠璃物語絵巻 第十巻 あらすじ

源氏の氏神(うじがみ)は旅の僧の姿となって牛若に近づき、預かった文を一瞬の間に矢矧(やはぎ)の宿の浄瑠璃に届ける。文を読んだ浄瑠璃は、母にも告げず牛若の後を追う。冷泉(れいぜい)と共につらい旅を続け、やっと蒲原(かんばら)の宿へ着くが、供も連れていない美しい二人を見た宿場の人々は、雪女と間違えて、誰も泊めようとしない。二人が荒れた辻堂(つじどう)で雨をしのいでいると、箱根権現(ごんげん)の変身した老いた尼が現れ、十四、五歳の若者は死んだと告げる。

 

浄瑠璃物語絵巻 第十一巻 あらすじ

浄瑠璃は砂浜から牛若の死体を掘り出し涙にくれる。浄瑠璃の涙を口に受けて牛若は甦(よみがえ)り、冷泉(れいぜい)の必死の祈願によって元気を取り戻す。牛若は必ず源氏の御代(みよ)として、浄瑠璃を北政所(きたのまんどころ)に迎えると約束し、浄瑠璃と冷泉を大小の烏天狗(からすてんぐ)に乗せて矢矧(やはぎ)の長者の館へ帰す。牛若は東国へ下るが、やがて藤原秀衡(ひでひら)の助けを得て、十万余騎を従え、平家追討(ついとう)を旗印(はたじるし)に都へ上る。その途中矢矧の宿の長者の館に立ち寄る。

 

浄瑠璃物語絵巻 第十二巻 あらすじ

牛若は、長者の館で歓待を受けるが、浄瑠璃が見えないので不審に思う。頭を剃(そ)り僧の姿をした冷泉が、浄瑠璃が馬追いと契(ちぎ)り、無断で後を追ったことで母の怒りにふれ、家を追われて、牛若を待ち焦がれつつ世を去ったと、涙ながらに告げる。浄瑠璃の墓前で法要(ほうよう)を行い、成仏(じょうぶつ)を願って和歌を詠むと、墓から返歌があり、五輪塔(ごりんとう)が割れその一片が牛若のたもとに入る。牛若は浄瑠璃の成仏を確信し、そこに冷泉寺を建てる。牛若の家来は浄瑠璃の母を簀巻(すまき)にして矢矧川に沈める。牛若は平家を討ち、源氏の御代(みよ)をたてたが、その心中を察せぬ者はなかった。

 

 

 

山中常盤物語絵巻 第1巻

 

堀江物語絵巻 第6巻

 

紀貫之図(左) 柿本人麿図(右)