展覧会
クイズで楽しむ「冨嶽三十六景」と「東海道五十三次」
2021.07.30(金) - 2021.09.07(火)
概要
本展は、浮世絵風景版画シリーズの双璧をなす葛飾北斎「冨嶽三十六景」と歌川広重「東海道五十三次(保永堂版)」の全作品を公開し、スマホを使ったクイズで楽しみながら、美術品について学ぶ展覧会です。
葛飾北斎(1760~1849)は、読本挿絵、錦絵、肉筆画など多彩な分野で活躍し、後の印象派の画家などに大きな影響を与えました。中でも天保2年(1831)頃より西村永寿堂から発行された「冨嶽三十六景」は、当時の富士信仰の盛行を背景に、斬新な構図や輸入品の化学顔料ベロ藍を用いた鮮やかな発色で人気を博しました。
一方、歌川広重(1797〜1858)は、はじめ歌川豊広の門人として役者絵、美人画を描きましたが、風景画家としての名声を高め、晩年まで多くの名所絵を制作しました。天保4年(1833)、版元竹内孫八が刊行した「保永堂版 東海道五十三次」では自然と融合した庶民の暮しや旅の情景が生き生きと描かれ、広重の出世作となりました。
北斎と広重による浮世絵風景版画シリーズの謎に迫る展覧会をこの機会に是非お楽しみください。
問題:作品の枚数として正しいのは次の内どれでしょう?
①「冨嶽三十六景」 36枚と「東海道五十三次」 53枚
②「冨嶽三十六景」 36枚と「東海道五十三次」 55枚
③「冨嶽三十六景」 46枚と「東海道五十三次」 55枚
答え: ③「冨嶽三十六景」 46枚と「東海道五十三次」 55枚
「冨嶽三十六景」は当初出版された36枚が好評を博したため、10枚が追加出版されました。「東海道五十三次」は53の宿場に日本橋(江戸)と京師(京都)を加えた55枚で構成されています。
「冨嶽三十六景」
葛飾北斎 江戸時代 天保2年(1831)頃
神奈川沖浪裏
荒れ狂う大波がその波裏をみせながら、鮮魚を運搬する3艘の押送船に崩れ落ちようとするなか、富士がその静かな姿をのぞかせている。鉤爪のような波頭を見せる大波と水しぶき、櫓を引き上げて転覆しないようにバランスをとる漕ぎ手達の動きが緊張感を生んでいる。自然の力と人間の姿を思い切った構図で表現した作品である。
問題:この作品を楽譜の表紙デザインに取り入れた作曲家は次のうち誰でしょう?
①モーツアルト
②ドビュッシー
③ベートーヴェン
答え:②ドビュッシー
フランスの作曲家ドビュッシー(1862-1918)は、交響詩「海」の初版譜面の表紙にこの作品をモチーフとして取り入れており、また、部屋の壁にこの作品を飾っていたことも知られています。
凱風快晴
凱風とは初夏の南風のことで、本図は南風を受ける晴やかな早朝の富士を、藍・緑・褐色を用いて表現している。青空にたなびく鱗雲に藍色のぼかし摺りで変化をつけ、朝日に赤く染められた富士も山頂から裾野にかけて微妙な階調をつけている。裾野の樹海は濃緑の点描と淡い緑のぼかしで表している。わずかに残る雪が山頂付近の形を立体的に見せている。俗に「赤富士」と呼ばれる作品で、富士の偉容と迫力が伝わってくる。
尾州不二見原
尾張国不二見原は、現在の名古屋市中区富士見町付近と思われるが、実際に富士を望むことはできない。本図は大きな桶枠の丸と小さな富士の三角形による幾何学的な組合せに、北斎の奇抜な趣向が伺われる作品である。桶を作る職人の姿は、『北斎漫画』第3編にもみえる。
甲州石班澤
石班澤(鰍沢)は、山梨県富士川町の地名で、釜無川と笛吹川と釜無川とが合流して富士川となる急流地である。波頭にしぶきを上げる流れの激しさを、点描を用いていきいきと表し、その奥には豊かな水量を感じさせるようにゆるやかな横線を幾重にも重ねている。岩場に立つ漁師を頂点として、左の魚籠を覗く子と岩場、右の綱が作り出す三角形が、富士との相似性を形成する北斎ならではの構成である。
遠江山中
静岡県西部の山中であろう。巨大な材木を2本ずつの丸太で対角線上に傾斜させ、上と下で木を挽く男を中心に、鋸の目立てに勤しむ男と赤子を背負った女房、膝を抱えて焚き火を見守る子どもを描いている。龍のような雲をまとった富士を2本の足場の間から見せる北斎独特の趣向で、材木、丸太、富士による三角形を駆使した構図がおもしろい。画面右側の空へ立ち昇る煙の線彫りやぼかしなど、摺りの技も高度である。
保永堂版 「東海道五十三次」
歌川広重 江戸時代 天保4~5年(1833~34)
日本橋 朝之景
日本橋は、慶長9年(1604)に五街道の起点として定められた。橋を横から捉え湾曲した橋梁を描く従来の構図とは対照的に、橋を正面から捉えた構図が大胆かつ斬新である。朝あけの雲を背景に、橋の向こうから先頭に挟箱を持つ人物、続いて毛槍など大名行列が現れる緊張感がよく表現されている。橋の手前では高札場のあたりで早朝の市から買い求めた魚や野菜をかつぎ歩く男たちが大名行列に道をあける。朝の日本橋界隈の活気がよく伝わる作品である。
箱根 湖水圖
箱根越えは、東海道中の最難所として、行き交う旅人を悩ませた。この図は、箱根の名勝、芦の湖畔の美しい風景であるが、この難所を強調するように箱根の山を異様な高さに誇張して描いている。さらにその岩肌を緑、茶、黄、青、灰色で様々な色彩で、モザイクのように表現している。険しい山間の坂道を、大名行列が下る光景も小さく描かれている。芦ノ湖を囲む山並みも色とりどりに表現されるが、雪をかぶった富士のみ白一色で描いている。
三島 朝霧
伊豆国の一宮・三島明神(三嶋大社)の鳥居を右側に描き、その前を朝霧に包まれて過ぎ行く駕籠と馬上の旅人を描いている。背景の鳥居、樹木、家並み、人物を濃淡の墨と青のシルエットとすることで、朝霧に包まれる雰囲気を見事に表現している。近景には、腕を組んで駕籠に揺られる男と駕籠かき、木綿製の引き回し合羽を羽織る馬上の人物と馬子などが描かれている。表情を見せる人物と見せない人物の対比もおもしろい。
蒲原 夜之雪
蒲原は温暖な地であるが、本図では雪が音もなく降り積もる夜更けの情景を描いている。画面左には崖を、中央には坂道を配した構図で、背を向けあった二組の人物を描いている。3人の人物の服装はそれぞれ異なり、色のアクセントにもなっている。右端の小田原提灯を提げた人物は饅頭笠に合羽であるが、脚は露わで、その後ろの人物は菅笠に雪をかぶった蓑をまとい、脚絆をつけている。左の人物は番傘に顔を隠し防寒の服装で杖をついている。
庄野 白雨
副題の「白雨」は夏の夕立のことで、突然の雨に、雨宿りの場所を求めて走る人々の様子を描いている。画面左に向かって坂を登るのは、菅笠に筵をまとった男と駕籠かきで、駕籠に乗る人物の左手を握る様子に緊張感が感じられる。右に向かって下るのは、左手で鍬を持ち右手で笠をおさえる男と、傘を持つ男である。傘には「五十三次」「竹のうち」の文字がみえる。屋根と竹薮を描いた近景に続き、風に揺れる竹藪を墨の濃淡によるシルエットとし、空間の奥行きを見事に表現している。