展覧会
北斎 冨嶽三十六景
2020.10.01(木) - 2020.11.10(火)
概要
葛飾北斎(1760 - 1849)の「冨嶽三十六景」は、富士信仰の盛行を背景に、天保2年(1831)頃より西村永寿堂から刊行された浮世絵風景版画で、様々な場所から望む富士を、人々の暮らしとともに描写しています。当初刊行された36図に、好評につき制作された10図を追加した全46図で構成される本作は、独創的な構図と舶来の「ベロ藍」による鮮やかな発色で北斎の代表作として高く評価されています。中でもグレート・ウェーブとして国内外に知れ渡る「神奈川沖波裏」や、鮮やかな朱色に染まる山容から「赤富士」とも呼ばれる「凱風快晴」、山下に稲妻を描く「山下白雨」は三役と呼ばれ親しまれています。本展では、浮世絵風景版画の分野を確立した「冨嶽三十六景」全46図を一挙公開いたします。構図、色彩の妙など、多彩に繰り広げられる「冨嶽三十六景」の世界をお楽しみください。
冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏
波の画家・北斎の名を生んだ名作である。逆巻く怒濤がその波裏をみせ、今にも崩れ落ちようとしている下で、必死の力漕をみせる漁船、富士はその浪間から静かに顔をのぞかせる。自然の力と人間、静と動、また奇抜で思い切った構図は、北斎にしてはじめて描き得たものである。
冨嶽三十六景 山下白雨
図は、山麓に稲妻を光らせて裾野の夕立(白雨)をみせている。北斎一流の構図で富士をとらえ、見るものに富士の高さと迫力を感じさせる。北斎は、「凱風快晴」と「山下白雨」の2図において、表と裏、朝と夕、晴と雨の変化に応え、富士の多面的な相貌を描きあげている。
冨嶽三十六景 深川万年橋下
深川万年橋は、大川(隅田川)に注ぐ小名木川にかけられた橋である。図は、太鼓のようにまるい橋を小名木川の水上から見あげ、大川を隔てて遠くに富士を描く。両岸に連なる家屋には遠近法を用いているが、その描き方には北斎独特の誇張がみられる。
冨嶽三十六景 尾州不二見原
尾州不二見原は、現在の名古屋市中区不二見町と思われるが、富士を遠望できる西限の地である。図は、大きな桶枠と三角の小さな富士の幾何学的な組合せに、北斎の奇抜な趣向がうかがわれる。また、北斎特有の瓢逸とした表情の桶屋職人は、すでに「北斎漫画」第三編に描かれている。
冨嶽三十六景 遠江山中
遠江山中とは、天竜川や大井川の支流が発する山奥のことと思われる。図は、斜めに大きく描いた材木の上で木を挽く樵夫を中心に、山の中の樵夫一家の働く姿を描く。図のように対角線上いっぱいに構図をとる方法は、北斎特有の造型美である。
冨嶽三十六景 駿州江尻
江尻は、清水港に隣接した東海道の宿駅で、現在の静岡市(静岡県)にあたる。図は、富士山麓特有の強風に難儀する旅人と、これとは対照的に泰然とした富士を輪郭線だけで描く。菅笠や懐紙が風に吹き飛ばされ、樹木が傾くほどのすさまじい風の情景をあますところなく描写している。
冨嶽三十六景 甲州三坂水面
甲府から富士吉田に抜ける山道にある三坂(御坂)峠は、眼下に河口湖がひろがり、ここからは富士の全貌が間近に見える。図は、河口湖畔を描くが、裏富士が夏姿であるに対し、湖面に映る逆富士は、頂に雪をいだく冬姿になっているのがいかにも北斎らしい。